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8.古葉村①

元々、外部とほとんど交流の無かった村で、しかも現在は廃村であるため、近隣の町(といってもかなり距離が離れている)で情報らしい情報を得ることは出来ない。

古葉村の位置する個所は山奥で、現地に行くには車の入り込めない山道を半日かけて歩く必要がある。
険しい山道を数時間歩き村に近付くと、視界に大きな湖が広がる。太陽の光をチラチラと反射する青く澄んだ美しい湖。村はこの湖の畔に位置する。

集落の木造の建物は半壊したものが目立ち、かつて田畑であった土地は荒れ果て、荒廃の度合いから過疎が廃村以前より顕著だったことが窺える。


◎民俗学者
村をある程度見て回った時点で<POW×2>に成功すると、誰かに見られているような不思議な感じがする。ここで、<目星>に成功すると、五歳くらいの男の子が遠くからこちらの様子を窺っていることに気が付く。栗毛の目の大きな可愛らしい子供で、童用の着物に草履、茶色のちゃんちゃんこといった恰好をしている。
探索者が近付こうとすると、子供は怖がった様子で近くの建物に入る。木造平屋の建物の門扉、「古葉村役場」と書かれた色あせた看板が半ば外れそうな状態で掛かっている。
戸に鍵は掛かっておらず、中はストーブが焚かれ暖かい。探索者が声をかけたり上がろうとすると、奥から「どなたですか」という声と共に男が出てくる。どてらを羽織ったやや背虫の痩せた中年で、人当たりのよさそうな顔をしている。男の後ろには先ほどの子供が、探索者を恐れるように男の足にしがみついている。

男は民俗学者の岩本四郎、子供は「仙井蛍(そまいけい)」という村長の孫。岩本が一年前に調査のため古葉村を訪れたところ、廃村後も最後の住人として村長とその孫が暮らしていた。村長は梅雨時の、6月20日に風邪をこじらせたのが原因で他界し、岩本は孫の蛍を引き取り今まで調査がてら村に留まり暮らしているという。

「村長には生前色々と調査に協力してもらったからね。もう少し村を調査したらこの子を連れて家に帰るつもりだ」

岩本から村についての話を聞ける。

・泥田坊
村の伝承について…

「村長から聞いた話なんだけどね、泥田坊って妖怪知ってるかい?田を取られた農民の恨みがたまって妖怪になったものなんだけど、この村にも似たような伝承がある。ちょっと変わっている点があって、その泥田坊が湖の泥から這い上がって、村人をさらうというんだ。田の水を引いていたから湖が田んぼと同じと考えられなくもないけど、普通、泥田坊は人を驚かせてもさらうことはない。しかも、この村の泥田坊がさらうのは、男だけなんだ」

ここまで話すと岩本は分厚いファイルを取り出す。村民のリストで、かなり昔からのものがストックされている。書かれている男性の名前の幾つかに「×」印がされている。

「死亡もしくは行方不明者に印がされているんだけど、これが結構な数に上る。村の伝承があながち嘘ではない証拠だと思う。まあ、僕は町に憧れる若者が村を捨てて出て行ったんじゃないかと考えているんだけど」

ファイルの中に、「松沢」や「西部」、「道野」など釘打ち殺人の被害者と共通する苗字が見受けられる。かなり古い資料にそれらの苗字が見られ、×印がある者も多い。

・釘
村の風習について…

「葬儀に際し、奇妙な風習がある。棺に釘を入れるんだ。土葬だった昔は、死体のこめかみに釘を打っていたらしい。死体が起き上がらないように刃物を置くという風習はあるけど、これはなんとも念入りだ。しかも釘を入れるのは男性のみに限る。どうも先の泥田坊と関係あるようで、死体が泥田坊にならないようにするための儀式だという」

・湖の祠
村祭りについて…

「豊穣祈願祭の一種で、若者達が湖に入って、湖の中にある祠に供物を捧げる。南方の海洋民族の祭りに近いかな。ただ、実際に行っていたのは戦前までのようで、以降は湖の畔で宴を催す程度に簡略化された」

祠は現在も湖にあるという。深部では無く湿地帯の個所に位置し、大人の腰がつかる程度の深さの場所に祀られている。

・久賀源一について
岩本は久賀について何も知らないが、彼のことを記した資料が役場に残っている(<図書館>)。

久賀源一が村に診療所を開業したのは20年前の5月19日。その1年後6月6日に、村の娘「仙井佳代(そまいかよ)」と結婚(ちなみに村長とは親戚関係)。さらに1年後の9月13日、子供「栄介(えいすけ)」が生まれる。しかし、それから三ヵ月後の12月15日、診療所は閉鎖している。
リストには久賀源一、妻の佳代、息子の栄介に「×」印が付いている。備考欄に、久賀源一は18年前の12月15日付けで失踪、佳代は18年前の12月10日に湖にて溺死、栄介は18年前の12月14日に病死とある。

また、リストから18年前の12月について調べると、12月14日に農家の「松沢道則(まつざわみちのり)」32歳と同じく農家の「佐野清三(さのしょうぞう)」25歳に×印が付いている。備考欄はいずれも事故死とある。

・峰岸磯六
古くから古葉村に出入りしている人物が居る。猟師の「峰岸磯六(みねぎしいそろく)」という男で、定期的に町から仕入れた衣類や雑貨、食料などを役場に運ぶ細事をしていた。現在も月に一度役場を訪れ、岩本に食料や新聞を届けている。
村での事件を訊ねると、岩本は彼を紹介する。

「僕は伝承しかわからないからね。そういうことは峰岸のじいさんが知っているかもしれない」
by nurunuruhotep | 2008-11-19 23:10 | 忘却の記憶 | Comments(0)