6.基地
山からは、耳に付く音叉のような(コーヒーミルと同じような)音がしており、それは奥に進むにつれ大きくなる。
しばらく進んだ時点で、<目星>に成功すると、黄色く色付いている木々が幾本か立っているエリアを発見する。それはイチョウの木で、キーンという音がここから一際強く響いている。
イチョウの木は、円陣を組むように円く並び立っている。木に囲まれた中心点は何も無いように見えるが、“門”になっていて、入った者をある場所に転送する(MP1、正気度1消費)。
◎アウトサイダー
“門”の転送先は、下水道のように湿った暗い通路。足元には、拳大の石が円形に並んでいる(中心に入るとイチョウの木が囲む場所に戻る。MP1、正気度1消費)。
通路は土の中を刳り貫いた感じで、進むと、やはり土の壁に囲まれた広いホールに出て行き止まる。ホールの中央に土で出来た壇がある。壇の中心に四角い穴が開いており、その穴のサイズは柊のコーヒーミルがちょうど嵌る大きさである。
コーヒーミルを壇の穴に嵌め、レバーを回すと、音叉のようなキーンという音がホールに響き渡る。すると、目の前が白く光るモヤに包まれる。視界はモヤによってくもり、はっきりと物を捉えられない。
白いモヤの中に3体の人くらいの大きさの「何か」が現れる。その「何か」の楕円形の頭部は青い光が明滅している。その3体の真ん中の奴が、円筒形の物体を持っている。よく目を凝らせば(<目星>)、円筒形の物体の中に脳ミソのようなものが液体に浸かっていることに気付く。
不意に、円筒形の物体から黄色い光が発せられ、ゆっくりと色が付いていって、ホログラム(立体映像)が映し出される。映像はやせた中年男性の顔。
映像の男性が微笑むと、あたりに男の声が響く。
「…いつか誰かが訪ねて来てくれると思っていました。雨月珈琲堂の方ですね?私は柊実です。マスターはお元気ですか?」
「今、私は友人たちと楽しく暮らしています。時折、前の生活を思い出し人恋しくもなりますが、あなた方が来てくれたおかげで、それもまぎれました」
「そのコーヒーミルは気兼ねなく使ってくださいとマスターにお伝えください。そしてこれからもおいしいコーヒーを入れ続けてください、とも」
「これでもう心残りはありません。友人たちには、これからは人々の前に出ないようにと言っておきます。好奇心旺盛なものたちなので聞いてくれるかどうかわかりませんが」
「それでは失礼します。もう二度と会うことはないでしょう。ご来訪本当にうれしかったです」
映像はここで消える。
眩い光が辺りを包むと、次の瞬間にはいつの間にかイチョウの木の下にいる(MP1、正気度1消費)。傍らにはコーヒーミルがある。イチョウの木はすべて枯れており、奇妙な音も聞こえない。また、木が囲む中心に入っても転送されない。