人気ブログランキング | 話題のタグを見る

04.伝承

【資料】
風土記など街の歴史資料に噂されている「ビースト」の姿を思わせる獣人に関しての記述がある。蹄と鉤爪のある半人半獣の化物が集落外れの大穴を出入りし、墓を荒らして死体を持ち去る、という話が記されている。化物は地獄に落ちた亡者の成れの果てで、穴は化物の住処である地獄に通じている。
穴は集落の外れの峡谷にあったが、天変地異(過去にあった自然災害と思われる)によって塞がれた。集落の人々は神官を呼んで祈祷を執り行い、穴のあった場所に慰霊碑を設けた。以来、墓荒しが頻繁に起こることはなくなった。

・碑
慰霊碑は現存し、資料に写真が掲載されている。辺りを木々に囲まれた場所に、巨大な岩がある。岩には文字らしきものが刻まれた跡がある。解説によれば、十六世紀中頃に建造されたもので、黄泉比良坂(よもつひらさか;神道で死者の世界に通じる道)を閉ざした旨の神事に則った文言が刻まれているとある。

・埋葬業
集落の人々が死体の処理を請け負っていたという仮説が記されている。当時の統治者(この街のある一帯を治めていた)の史料から、合戦や疫病・飢饉などで多くの死者が出ており埋葬場所とそれを請け負う人員を在野の集落に求めていたことがわかっている。集落の規模と墓場に足る土地面積等から察して、ひょっとすると大穴を墓穴代わりに利用していたかもしれない。墓荒しの話は、死体の数を誤魔化す方便の可能性がある、と述べている。

・現在
峡谷付近は貨物搬送ルートとして開発された産業道路が走っている。道路外は切り立った崖や急斜面な為、行政は山林への一般人の侵入を禁じている。石碑のある個所も同様である。

【インターネット】
ネット上で大穴のあったとされる個所の情報を探ると、石碑のある周辺が自殺スポットになっていることがわかる。木々が鬱蒼と茂る様を富士の樹海に例えている。特に方位磁石が狂う等の話は無いが、こちらの「樹海」は死ぬと死体が見つからないという。実際に「樹海」で遺書や靴・衣類、縄紐や練炭を使用したテントなどが見つかっているが、死体を発見した報告はそれら遺品(?)の数と比べると極めて少ない。

・死体
4月7日、「樹海」で女性の死体が見つかった。定期的な見回りに訪れた行政職員とボランティアらが石碑の傍で発見。地方新聞やローカルニュースに小さく取り上げられており、死んでいた人物はこの街の大学に通う「宇佐沢眞殊(うさざわ・まこと)」19歳、一人暮らしの自室から遺書らしきものが見つかっており自殺の可能性が高いと報じた。宇佐沢眞殊に関する詳細は後述。

【運送業者】
産業道路を頻繁に往来する物流トラックのドライバーから奇妙な話を聞くことが出来る。

・泣き声
夜間、走行中に赤子の泣き声が聞こえる。時間的にも場所的にも子供連れの親子が居るような個所ではないし、勿論車中に赤子を乗せているはずもない。泣き声を耳にするのは「樹海」の傍を通過する時で、複数人が同様のことを言う。
必ず聞こえるわけではなく、時間に余裕が無かったりスケジュールが過密な場合などが主で、精神的に過敏になっていることが原因と自覚する者が多い。聞いた話を真に受け自分もそう感じると思い込んでいるだけと分析する者も居る。
ここ2、3週間の話である。
by nurunuruhotep | 2015-04-19 11:19 | シュトラウスの晩餐 | Comments(0)