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6.河川敷

大家の遺体が発見されたのは広い自然公園の一角。川と接した個所で、ホームレスが多く暮らす。

◎センセイ
「大家智弘」の名前を知る者は河原の住人の中に誰一人居ないが、彼の写真を見せたりテントで死んでいた人物のことを尋ねると、皆口々にその人物を「センセイ」と呼ぶ。

・来訪
センセイは6月の初め頃にふらっと現れた。身に着けているもの以外は手荷物は何も無く、最初は自殺志願者だと思い警戒した。

・昆虫採集
センセイはこの一帯や高台のライラック園で昆虫を採集していた。カブトムシやクワガタ、カナブン等の甲虫が主で、捨てられた瓶や箱を利用して細かく分類していた。あまりに研究熱心な様子から「センセイ」と渾名された。

・変人
「研究」以外には無頓着で、放って置くと雨露関係なしに食事も取らずに没頭する。見かねたホームレス仲間達が住居用にテントを提供し、何かと世話を焼いていた。センセイは変わっていたが、いつも笑っていて憎めない人物であった。笑顔を絶やさないことを尋ねると、「人は笑う動物だから」と答えた。

・恩人
センセイには恩人がいるらしく、自分が係っていた土地のトラブルを解決する大きな助けになった人物だという。また、自分が研究(おそらく虫取りのこと?)出来るのはその人が環境を提供してくれたお陰と言っていた。
その恩人は長らくの夢だったという旅行に出掛け、もう会うことは無い。通信手段のトラブルで、旅先のコーヒーがまずいと嘆く知らせが一度届いたきり音信不通とのこと。

・死の直前
死ぬ3、4日前、センセイは妙なことを言っていた。「もうここに留まるのは限界だ」今思えば自らの死期を悟った発言だろう。


◎テント
大家が死んでいたテントは既に片付けられている。元から生活感が無く、目立った遺留品は残っていなかった。死んだ時には飼っていた昆虫は一匹も居らず、センセイがどこかに逃がしたものと皆思っている。


◎記憶喪失者
昨日(探索開始の)の記憶の無いホームレスがいる。
今朝になって住居のテントの中ではたと自分を取り戻した。それまで本人はどう過ごしていたのかわからないという。昨日以前の記憶に関しては、はっきりした口調で答え、病気を患っていたり虚偽を言っている感じは無い。
他の住人に聞くと、そういえば昨日は見かけなかったと答える(生活柄から別段気にする者はいない)。

・花弁
履いていた靴の底やテントの中を調べると紫の花びら(ライラック)が数枚見つかる。

・催眠
この人物に対し、時間をかけてしつこく問い詰めたり、<精神分析>によるアプローチを試みた場合、普通に話していた様子が突如一変する。無言になると立ち上がり、ぐるぐるとその場を回転し始める。右に2回、左に3回ほど周るとぐらりと膝から崩れ落ちて倒れる。数秒の間気絶するが直ぐに目覚める。
起きた後に、何故そんなことをしたのか聞くと、何もわからないと答える(嘘を言っている様子は無い)。

※このホームレスこそ雨月珈琲堂にソーサーを届けた人物である。その時はイス人に肉体を支配されていた(現在は本人の精神が戻っている)。
by nurunuruhotep | 2015-12-28 17:21 | Coffee Saucer | Comments(0)