Secret Track

「HOLY BELL」



【導入】
 現代日本。12月23日の朝、坂の上の喫茶店を探索者が訪れた場面から物語は始まる。この喫茶店は探索者達の馴染みの店で、ミドルグレーなマスターが経営している。探索の拠点とすることが多い。

 喫茶店は毎年のイブの日は必ず休業する。常連客の中にはマスターが恋人と過ごすからだとからかったことを言う者もいるが、実際には店主が郷里(喫茶店のある街ではない)の養護施設でクリスマスの慈善活動を行っているからである。
 寡黙なマスターは恥ずかしがって真相を自らは語らず、なるべくはぐらかそうとする。

 また、24日に店を閉めるのは喫茶店だけではなく、坂界隈の個人商店はどこも休業する。この地域の古くからの慣わしで、マスターはその機会を利用している。

・不審な電話
 店に昨晩、24日の夜11時30分から日付が変わるまで貸切りを依頼する電話があった。電話は用件を言い終えると一方的に切れた。
 電話先の相手は男性の低いぼそぼそした声で「キリヤハルト」と名乗った。マスターはこの名前に覚えがあり、20年近く前に店によく遊びに来ていた少年と同じだという。
 マスターが名前を覚えていた理由は、当時、街にあった資産家の屋敷でかなりの死者を出した大火事があったからである。その屋敷の家主が「桐矢」で、少年はそこの「お坊ちゃん」であった。マスターは少年の安否について詳しくは知らないが、火事があって以降、少年が店に来ることは無かった。

 マスターは例年通りに24日に店を休業にし、郷里に向かうつもりでいる。その為、「キリヤハルト」についての調査と24日の店のことを探索者に頼む。


【背景】
 桐矢屋敷があった一帯は、実は太古に‘古のもの’どもが基地としていた場所である。そこでは奴隷として‘ショゴス’が飼われていたが、自我を持ったショゴスの反乱によってコロニーは壊滅した。

 永劫の時を経て、かつてのショゴスの飼育場跡に建てられたのが桐矢屋敷である。「桐矢晴人(きりや・はると)」は屋敷の持ち主である富豪の一人息子であった。
 晴人は人より優遇された身分とは裏腹に寂しい思いをしていた。彼の両親は仕事や社交の場に気をとられ、子供に十分な愛情を注いではいなかった。少年はいつも庭のモミの木に両親が自分に振り向いてくれるよう祈っていた。

 18年前、12月24日の夜、屋敷が火の海に包まれた。この大火を起こした張本人はまだ幼い少年であった。たとえ叱られても自分を見て欲しいという思いが晴人を凶行に突き動かしたのである。

 少年の願いは叶うことは無く、それどころか彼の両親を含む屋敷に居た多くの人々を焼死させる最悪の結果となった。しかし、切なる「祈り」はある存在に届いていた。それはモミの木の下、はるか地中深くに眠る、太古の支配者が使用せずに残していた幼生のショゴスであった…。


【坂について】
 喫茶店のある坂界隈について、風土史などを調べることで次のことがわかる。

 坂は冥府と現世との境界であるという伝承が古くこの地にある。年に一度、12月24日に境界を隔てる扉が開き、冥府から化け物がやってくるという。化け物に見つからないよう、住民はなるべく静かにこの日をやり過ごす。
 年末年始の喧騒を前に派手な行為は避け厳粛に努める戒めであったが、年月が経つ内に形骸化し現在では一般には忘れられた。縁起を担ぐ商売人の間にだけ店舗を閉めるという形で受け継がれている。

 坂が冥府と現世との境という考えは古事記や万葉集にも見られ、日本中に類似した伝承がある。<オカルト>で、人ならざるものが現れる、またそれをやり過ごすという儀式は、盆と庚申会(こうしんえ;庚申の日に祭神を祭り徹夜で過ごす行事)が混ざったものと推察する。

 なお、坂のことを調べた際に、1920年に発見された遺構の情報に当たる(後述)。


【火事について】
 桐矢家の屋敷火災について過去の新聞などから次の情報を得ることが出来る。

 火事が起きたのは今から18年前の12月24日。午後一時頃に出火し季節柄乾燥していたことも災いして燃え広がり、屋敷は全焼した。
 屋敷の主で資産家の「桐矢呈一(きりや・ていいち)」、その妻「久子(ひさこ)」と住み込みの使用人を合わせた13名がこの火事で死亡している。これは、当時、建物内に居た全員である。
 屋敷の住人で生存者は、当時8才であった桐矢夫婦の子息・晴人とその世話役の「深川定男(ふかがわ・さだお)」で、火災当時、晴人は庭に居り、深川は買出しに行っていた。
 屋敷の火事は何者かによる放火とされたが、結局、犯人は見つからなかった。

 火事について当時取材をしたマスコミなどを当たると…

・桐矢晴人は庭でひどい火傷を負った状態で見つかった。一命は取り留めたものの昏睡状態から回復することは無く、一度も目覚めないまま18年を経た現在も入院中である。

・深川定男は当時の取材で一切の口を閉ざした。警察による事情聴取も頑なに知らぬ存ぜぬで通し、放火に何かしらの関与が疑われたがアリバイの裏付けが取れており捜査線からは外れた。


【桐矢屋敷について】
 桐矢屋敷は、一代で財を成した「桐矢周蔵(きりや・しゅうぞう)」が1920年に建てた。当時、屋敷建設の際に地中から遺構が見つかったが、周蔵はその調査を拒否し強引に屋敷を建設させた。
 18年前に屋敷が焼失した後、遺構の調査が行政管理の下に行われたが過去の地均しによって既に見る影は無かった。その後、土地は一帯に宅地開発を構想していた大手不動産業者に渡った。現在は高層マンションが建ち並ぶ。

 街にある大学や建設を担当した業者などから遺構に関する資料(現場写真等)を見つけることが出来る。但し、本格的調査を行っていない為、詳細な情報は得られない。
 乏しい資料からわかることは(<考古学>)…

・これまで発見されたどのタイプとも異なり、年代を特定することが出来ない。

・用途不明な奇妙な形状(歪な渦巻き型の溝、不規則な間隔の段差、位置や形の統一性無く開いた様々な穴…等)ばかりで、これを築いた者の目的がわからない。

・生物や植物の化石等は見つかっていない。

 残存資料に目を通した後、<クトゥルフ神話>で、この遺構が‘古のもの’に関係する建造物跡であることを推測する。


【桐矢屋敷跡】
 桐矢屋敷のあった一帯には現在はマンションが建ち並んでいる。

 戦前の豪商が建てた古屋敷は影も形も無いが、高層物郡の一角の小さな公園に大きな木が立っている。それはモミの木で、<生物学>で少なくとも一世紀を経た大樹であることに気が付く。先日の雪が枝葉に残り、さながら巨大なクリスマスツリーのように見える。
 この木の周りで発見できるものは無いが、<POW×3>で調査中に一瞬、ただならぬ気配を感じる。総毛立つ悪寒を覚えるが、その原因はわからない。

 周辺の住民から次の情報を得ることが出来る。

・公園のモミの木は元々桐矢屋敷の庭にあったもので、奇跡的に火の手を免れた。威風堂々とした古木を切り倒すのを惜しむ声が上がり、鎮魂の意味合いも兼ねて残された。

・グリーン・サンタの噂。毎年、クリスマスが迫るとこの辺りに「怪人」が出没する。全身赤尽くめのサンタクロースのような格好をしているが、露わの顔や手は緑色をしている。夜間に現れ、人目に触れるとすぐに逃げる。クリスマスを過ぎると出現しなくなるという。

◎グリーン・サンタ
 12月23日の夜、桐矢屋敷のあった場所周辺に居る場合、次のことが起きる。

 人通りが無くなり生活の灯が消えた深夜。<聞き耳>でズルズルと何かを引きずるような音を聞く。<目星>で、2メートル程の巨躯な人物が不恰好にもたつきながら歩いているのを発見する。赤い羽毛の付いた服を着ている。音はそいつが引きずる足の底が地面とこすれて発したものである。
 
 近付くとそいつの姿を目の当たりにする。服に見えたのは赤銅色の体毛で、そいつの全身を覆っている。体毛から表に出た顔や手は濃い緑色をしており、眼球は半ば飛び出て焦点が定まらずギョロつき、大きな口は泡立った粘液に塗れている。正気度ロール(0/1D6)。

 「怪人」は探索者に見つかると、すぐに逃げ出す。探索者が捕らえようとしたり、攻撃を仕掛けた場合、そいつはドロドロに溶解して地面に染み込んで逃げる(正気度ロール、1/1D6)。その際、「テケリ・リ」という奇妙な音を発する。探索者の行動によっては「怪人」はある程度の反撃を試みるかもしれない。


【病院】
 この街にある病院の一室で桐矢晴人は今も尚、眠り続けている。18年間、一度も目覚めていない。

 病院の医師や看護士などから次の情報を得ることが出来る。

・18年間寝たきりにしては、脳に一切の障害が出ていない。また、彼の脳波はレム睡眠の状態と同じ波長を維持している。レム睡眠は一般に夢を見る状態である。

・深川定男が晴人の身元保証人になっている。桐矢家の財産は火災による被害の補填に使われ多くを失い、晴人には僅かも残らなかったが、深川が18年間彼の入院費を払い続けている。深川が住んでいる場所はこの病院でわかる。

・幽霊の話。宿直の看護士の数人が見ており、深夜におぼろげな青白い光に包まれた青年が直立したままスウッと滑る様に廊下を移動し、消える。青年の顔は晴人にそっくりで、直ぐに病室に行き確認したが晴人は変わり無く眠ったままであった。幽霊(?)が出るようになったのは最近で、数回起きている。遂先日(22日)の夜にも現れたという証言がある。

◎幽霊
 12月23日の夜、病院で桐矢晴人の部屋の前を張っていると、次のことが起きる。
 
 ふいに探索者の背筋に悪寒が走る。晴人の部屋のドアが閉じているにも係らず、そこからヌッと半透明な姿の晴人が出てくる。晴人は探索者を気に留める様子も無く、廊下を滑るように移動し、消える。目撃者は正気度ロールを行う(0/1D4)。
 この時、病室内の晴人は特に変わった様子無く眠ったままである。


【後見人】
 深川定男はこの街で一人で暮らしている。彼から桐矢屋敷で働いていた頃の話を聞くことが出来るが、火事については口を噤むのでそのことに関して情報を得るには何かしらの工夫が必要である。

・桐矢晴人について
 晴人の両親は仕事や社交に勤しむあまり家庭を疎かにしていた。夫婦仲は冷え切っており、晴人の普段の世話は幼児の頃から深川達使用人が担当していた。
 晴人は庭のモミの木に登り、落下して病院に運ばれたことがある。軽症で済んだが、その際に駆けつけた両親は自分達の用事が反故になったことから晴人や使用人をひどく叱責した。しかし晴人はそれが二人が自分を向いた思い出として拠り所にするように、以来、モミの木によく寄り添うようになった。
 晴人が普段あったことを父や母に見立ててモミの木に語りかける姿を深川は目撃している。寂しい様子の晴人をいたたまれなく思った深川は、呈一や久子にもっと子供にかまってやるよう幾度と無く進言したが、聞き入れられることは無かった。

・放火犯
 火事があった一週間前、屋敷のカーテンの1つに焦げ跡が見つかった。一部が黒ずんだ程度であったが、使用人の数人がそのカーテンのある部屋からよそよそしい様子で出て来る晴人の姿を見ていた。また、その数日前に旦那様(呈一)の部屋から高価なオイルライターが1つ無くなっていた。
 12月24日の夜は毎年、晴人の為に使用人らがクリスマス会を催した。昼過ぎに、深川がパーティ用の食材の買出しと注文していたケーキを取りに屋敷を出る際、晴人から今年はきっと両親も参加するので多めに食べ物を用意するようお願いされた。深川は(例年と同じく)その時間は呈一と久子が政財界のお歴々が集うクリスマスパーティに出席することを知っていた。
 深川はこれらのことを一切口外していない。彼は晴人が屋敷に火を放った犯人だと考えている。

・ベル
 深川はある鐘(ベル)を所持している。クリスマスツリーとして飾った庭のモミの木に吊るしていたもので、火事の影響からか所々焼けたり溶けた跡がある。クラッパー(舌)部分が変形しており、振ると鈍い音がする。
 鐘の内側に奇妙な焦げ跡が付いている。歪な五角形をしており、<クトゥルフ神話>で‘旧き印’の形に近い印象を受ける。
 鐘は深川がクリスマスのデコレート用にインポート店から取り寄せたものだという。調べれば、値は張るものの普通に売られているものであることがわかる。内側の奇妙な模様については、火事によって偶然付いたものであろうと(あまり気に留めていない様子で)語る。


【聖夜の鐘】
 12月24日、午後11時30分に喫茶店に居ると次のことが起きる。

 予約の時刻を時計の針が指すと同時に店内の照明が全て落ちる。スイッチを入れ直しても点灯しない。それから、ポッと店の中心に青白いスポットが当たる。そこには7、8才ほどの可愛らしい男の子がいつの間にか立っている。男の子に話しても反応は無く、また、彼に触れようとすると立体映像のようにすり抜ける。
 男の子の出現と同時に店の扉を叩く音がこだまする。<聞き耳>で、扉の外から「メリークリスマス」という男女の揃った声を聞く。
 扉の外に居るのは「怪人」グリーン・サンタである。ショゴスの化身は少年の願い…両親と一緒にクリスマスを祝うこと、を叶える為に現れた。首から上は二股に別れて晴人の両親、呈一と久子の顔が付いており、ニタニタと不気味な笑みを浮かべている。この姿を目撃した者は正気度ロール(1/1D8)。

 グリーン・サンタは10ラウンド後に扉を突き破って店に侵入する。中央の男の子の前まで来ると、「晴人、おめでとう」「晴人、愛してるわ」と繰り返し拍手する。このシュールな光景は日付が変わるまで続く。それが過ぎると一旦暗くなってから照明が戻る。怪人と男の子の姿は無い。

 グリーン・サンタが侵入する前に、深川が所持していた鐘を振ると、鈍い音しかしない筈が教会の荘厳なベルを思わす調べが店内に鳴り響く。
 鐘の音が止むと、いつの間にか中央のテーブルに豪華な料理と大きなケーキが並んでいる。料理を囲んで男の子と中年の男女が座る。笑顔で談笑しているが音は聞こえない。
 青白い光は次第に収縮して消え、真っ暗になってから店の照明が復旧する。店には探索者しか居らず、辺りは何も無かったように静寂に包まれている。

 日付が変わって間もなく、喫茶店のマスターが姿を現す。店が心配で(打ち上げをキャンセルして)戻ってきたという。
 マスターは事情を聞くと、探索者にコーヒーを淹れる。遠くから鐘の音が聞こえる。


【報酬】
 このシナリオの参加者は1D6の正気度を得る。鐘を鳴らす方法の結末を迎えた場合、1D4の正気度を追加で得る。ショゴスと戦い勝利した場合は1D6の正気度が追加される。


【データ】

マスター
STR12 CON13 SIZ13 INT15 POW18
DEX16 APP15 EDU18 正気度90 耐久力13
<おいしいコーヒーを淹れる99%> 等

深川定男
STR10 CON 9 SIZ13 INT13 POW10
DEX11 APP10 EDU16 正気度50 耐久力11
<運転(自動車)60%><経理60%><信用80%><説得65%>
<値切り75%><庭の手入れ85%>

グリーン・サンタ(ショゴスの幼生)
STR20 CON20 SIZ18 INT10 POW12
DEX 6 ダメージボーナス+1D6 移動10 耐久力19
武器:<押しつぶし70%>1D6(ダメージボーナス)
装甲:火と電気は半分、火器は1ダメージ。ラウンド毎に2耐久力回復。
正気度喪失:怪人時は0/1D6、本来の姿の時は1D6/1D20
[PR]
by nurunuruhotep | 2014-12-06 18:03 | Comments(0)